38歳ゲイリーマンのサバイバル

この記録がいつか自分自身の・誰かの道標になりますように

【書評】遠い太鼓 (村上春樹)

40歳というのは、我々の人生にとってかなり重要な意味を持つ節目なのではなかろうかそれは何かを取り、何かを後に置いていくこと、一つの大きな転換点なのだ。

 

当たり前のことを、こうやって書かれると「ふむふむ、なるほど」なんて思いたくもなるが何のことはない、当たり前のことを言っているだけだ。何かを選択しながら我々は生きてきた、ということを言っているだけなのだから。本当にこの作家はいちいち言い回しが素敵だ。至極当たり前のことをカッコよく伝える天才だな(褒めてる)。

 

そんな村上春樹が37-40歳(1987-89年)を過ごしたギリシア・イタリア(ちょっと北欧とかもある)滞在記がこの『遠い太鼓』。地中海の乾燥した大地と青々とした海の上で暮らす人々の適当さ・おおらかさが、愛情をもって描かれている。

 

面白かったところ

・ミコノス島ではランニング中に「なんで走っているの?」「走るのは体に悪いよ」「ウゾ(蒸留酒)飲もうよ」と声をかけてくる3人のオバちゃんたち。確かにウザかったろうな。

・一人で黙々と走る人と、何人かで走る人の割合は、ドイツやアメリカで8:2。イタリアは2:8。一人が小便すると、全員それが終わるのを待つ。それ、もはやランニングじゃねえよ、イタリア人。

・「イタリア人って食べること・喋ること・口説くこと以外はあまり一生懸命になることはない」とマルタ人。「だから、第二次世界大戦中も、高射砲を恐れてマルタへの空爆は高高度から爆弾を落としてサーっと帰っていくだけ。これじゃ爆弾は当たらない。おかげで被害はなかった。その意味ではいい国です」(いい国⁉)

ロードス島の近くにハルキ島(KHALKI島)という島がある。ハルキ号の船長のおっちゃんがいい人だった。島は何もなかった。ちょっと行ってみたいなと思った。Google Mapにもあった。

ロードス島の近くにカルパトス島という島がある。道が悪く、行くのも命がけ。結局たどり着けなかった。(でも、今Google Mapで見たら立派な道が通ってた。時代の変化だな!)

村上春樹がお勧めするイタリアは、トスカーナにあるキャンティ地方。景色がきれい、空気が良い、都会までのアクセスも良好、人も穏やか。ワインうまい。それにワイナリーに付属したきれいな旅館がよい…etc。俺も行ってみたい。

・逆に住みたくないのは、シチリア島だ。治安が悪く、街は薄汚れていて、人々の表情も悲壮感が漂う。うーん、そんなことなかったけどな。

・ローマの軽犯罪は常識的に対応できるレベルを超えている。ひったくり、置き引き、ジプシー、暴力バー、つり銭ごまかし、詐欺タクシーなど。イタリア人は白昼堂々と犯罪が起こっていても見て見ぬふり。しまいには「あれはユーゴ人の仕業だよ」。

 

南欧のなんともいえない空気感が伝わってくる、そんな本だった。遠く遠く、なんだかイタリアやギリシアの人たちの生活やその鼓動が伝わってくるような。いい40歳を迎えるコツは、畢竟、(むかつくことを含め)色々な体験をすること、それを楽しむことなんだろう。

 

ちなみに、この村上春樹が「住みたくない町」と切り捨てたパレルモ、俺は嫌いじゃない。彼のいう通り鰯のパスタは美味しかったし、多分イカ墨の料理も食べた。タコもワインも美味しかった。早稲田の居酒屋で飲まされたワインが糞まずかったから、それ以来ワインなんて大嫌いだったけど、パレルモにきて「あれ、ワインって美味しいんだ」となった。ワインが好きになるきっかけをくれたのがパレルモだった。街だって安全だ。そんなこと知らずに夜だってガンガン歩き回った。この本に書かれているパレルモから30年だ経っている。人だって町だって変わっていくさ。

 

でも、重大なことが判明した。パレルモの写真がない。俺と旦那が2016年1月頃に行ったイタリアの写真が全部ない。シチリア島(パレルモ、アグリジェント)、ナポリポンペイ、ローマ、と巡った時の写真。一枚もデータが見つからない。いつか、忘れてしまう前に、旅行記に残しておきたいなあ。