38歳ゲイリーマンのサバイバル

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【書評】『日本軍兵士』(吉田裕)

軍人・軍属230万人、民間人80万人合計310万人の日本人の犠牲と、1900万人とも推定される犠牲をアジア全域にもたらした大東亜戦争。この本は、この戦争を兵士が直面した凄惨な戦場の実相という観点で描き出したものだ。

 

僕の読了後の感想は「やはり、あの戦争は勝てるはずがなかったのだ」「あの時代に兵士として戦場に送られていなくて本当に良かった」というものだ。ミッドウェイで負けていなければ、といったIFの成否に関らず、負けていた。残念ながら総力戦たるべき彼我の国力差があまりにも大きすぎたのだ。

 

大東亜戦争で命を落としたもののうち、その多くは戦場で命を散らしたと皆思っているようだがそれは違う。その多くは戦病死だ。その割合は日中戦線で41年ですら約50%、44年以降の絶望的抗戦期では73.5%に上る。太平洋戦線では統計すらないが、医療事情と熱帯という気候を考慮すれば更に高い数字であることは疑いの余地がない。口腔衛生観念欠如による虫歯、栄養失調による餓死とマラリヤアメーバ赤痢感染、極度の心労からくる精神失調。自殺。撤退に際し傷病者を置き去りにし自殺させる「処置」。食料奪い合いのための部隊内の強奪事件すらも。これのいったいどこが栄光ある皇軍兵士か。輸送船とともに海に沈む海没死も35万人を数えたというが、霞んでしまう。

 

長引く戦争は徴兵基準緩和のによる兵士の体格の低下、知的・身体的障害者すらの入隊にまで行き着いた。それでいて食料も装備も不足。古参兵による私的制裁も日常茶飯事。今まで市井の市民として暮らしていた者にとっては地獄以外の何物でもなかっただろう。

 

飛行場一つ作るにしても、ブルドーザーを用いるアメリカとツルハシとシャベルを用いる日本。圧倒的なレーダー技術をもって本土の夜間爆撃をするアメリカと、パイロットに麻薬や目に良さそうなものを食べさせ、昼夜逆転の生活をさせ夜間迎撃に臨む日本。通信技術水準も低く、戦場ですら部隊間の連絡は有線。切断されたら終わりだ。

 

 

よく先の大戦に突入するする前の日米の経済力差は・・・や軍艦トン数の差が・・・と統計を目にすることがある。きっとその通りなのだろう。でも、日米経済力の格差が、兵士の服や靴や食糧、ひいては滑走路の敷設工事のスピードやクオリティに表れているのだ。短期的な勝利もしくは単発的な勝利を重ねたところで、総力戦たる近代国家間の戦争においてこれだけの国力差があっては勝てるはずもなかったのだ。「戦争」という判断を下し、それを指揮した当時の指導者の責任は重い(戦争犯罪、という意味ではなく政治的な責任という意味で)。

 

日本の大東亜戦争敗戦の根底には、非効率さ、根拠なき優越感、技術力の劣後、兵士がポテンシャルを発揮して戦える環境を用意できなかったこと、等があると思う。今まさに日本ではそれが形を変え繰り替えされてはいないだろうか?非効率かつ今の世の中に合わないシステムが変わらず残り、「すげーぞ日本」の根拠なき優越感が台頭し、社会生活を豊かにする技術革新からはどんどん取り残されていく。そうならないよう、俺ら世代が声を上げて変わっていかないといけない。